第4回:クスリの科学(1)クスリとは何か

2020年10月20日から、3週間に1回、大手製薬企業勤務で“えきがくしゃ”の青木コトナリ氏による連載コラム「疫学と算盤(ソロバン)」がスタートします。
日経BP総合研究所メディカル・ヘルスラボWEBサイトに連載し好評を博した連載コラム「医療DATAコト始め」の続編です。「疫学と算盤」、言い換えれば、「疫学」と「経済」または「医療経済」との間にどのような相関があるのか、「疫学」は「経済」や「暮らし」にどのような影響を与えうるのか。疫学は果たして役に立っているのか。“えきがくしゃ” 青木コトナリ氏のユニークな視点から展開される新コラムです。

(21世紀メディカル研究所・主席研究員 阪田英也)

 

“えきがくしゃ” 青木コトナリ 連載コラム
第4回:クスリの科学(1)クスリとは何か


国内で新型コロナの第3波が明らかになってきたため、「GoTo(ゴートゥー)」をこのまま続けるのか、それとも見直すべきかという議論が沸騰している。私は未だそのGoToなるものの恩恵に預かったことはないのだが、悪い方の影響なら受けている。

「GoToイート」以降、近所のお寿司屋さんを予約することが全く出来なくなってしまったのである。高級寿司店ならばともかく、私のような庶民が行くような回転寿司チェーンともなると平生であっても予約は混み合っていたのに、「GoToイート」利用可の状況では来店をあきらめるしかないようだ。

ということでやむを得ず(?)先日は「回転しない」寿司屋さんにお邪魔したのだが、そこでふと思ったのがサーモンについてである。年配の方や私と同世代の人ならばご存じのことだと思うが、子供の頃は現在のように冷凍技術が優れていなかったことからサーモンを生食で食べるという習慣はなく(サルモネラ菌のリスクがあった)、然るに正当な江戸前の寿司屋ならばサーモンはメニューに無いのかもしれないな、なんてことを思いながら「回転はしていないが高級ではない(お店の方、ごめんなさい)」寿司屋でサーモンを食していた。

ところで、そもそも生食の鮭のことは「サーモン」というのに、どうして焼き魚となると何故「サーモン」と言わないのだろう。そういえば「まぐろ」と「ツナ」も似たような関係があって、寿司屋でまぐろのことを日本人は決してツナとは言わないし、ツナサラダのことを「まぐろサラダ」なんて言おうものなら、恐らく別のメニューのことになるのだろう。

クスリの時間旅行

さて、前回がワクチンのお話であったこともあり、その流れで製薬企業に勤務する私の生業、お世話になっているクスリについて取り上げることにした。そこでふと気になったのが、私がなまじ製薬企業に身を置いているからして、仮に本コラムをお読み頂いている人が製薬企業とは縁遠い人であったときに思わぬ行き違いが生じないだろうかという心配である。

人は大抵、仕事でも趣味でもディープにその世界に身を置いているときに、そうでない人との間にある溝、乖離には気がつきにくいものである。中でもちょっとした略号や言い回しなどは結果的にその世界の”参入障壁”になりがちで、それを避けるためにもクスリのお話の「疫学と算盤」に入る前にまずは「クスリってそもそも何?」というところからスタートしてみたい。

とはいっても、ありがちな定義化を目指すのは野暮(やぼ)ったく退屈するようにも思える。言語学の分野ではプロトタイプ理論というものが知られており、ヒトの認知とはせいぜいその代表的事例(プロトタイプ)とその類似型で成されるものであって、明確な線引き、定義化とは違うというものである。

確かに「野菜と果物の違いとは何か」「犬とオオカミの違いは何か」などをクリアに説明できる能力はさして必要性もない。ここでも定義化を目指すのではなく、ちょっと問いかけ方を変えてSF漫画のように「タイムマシンに乗って、クスリの無かった時代に行こう」とでもしてみようか。もちろん、クスリの定義が曖昧なのでどの時代に降り立つことになるかは正解が定まらないのであるが、その無計画性もタイムトラベルの一興と考えればかえって面白いかもしれない。