第3回:ワクチン接種の科学

 

ベネフィット&リスク
ワクチンに対して私たちの期待が高まることは必然といえるだろう。実際にワクチンによりこの地球上から根絶することが出来た感染症もあり(天然痘)、只今はポリオや麻疹もワクチンによって根絶できるのではないかという期待の声もある。新型コロナウィルスもひょっとしたらという期待をどれほど抱けるのかどうかは別として、仮に新型コロナウィルスを地球上から根絶することが出来るとするならばワクチン以外にはあり得そうにない。

一方で、これまでみてきた乳幼児への任意接種、インフルエンザワクチンの毎年の接種、HPVワクチンの接種などを自分事としてとらえたとき、果たして科学的に正しい態度で判断出来ているだろうかというと甚だ怪しいところがある。自分が病気になったときに医薬品を処方するのとは違ってワクチンはあくまで予防が目的であり、積極的に接種したくなければその理由はいくらでも見つかるだろう(面倒、お金が掛かる、副反応が怖い、痛そう)。

疫学としての狭義の立ち位置では、「是非とも接種を」というイメージがしっくりときそうだが、本コラム「疫学と算盤」としては、ワクチン接種の良いところ(ベネフィット)と悪いところ(リスク)を適切に見極め、自分の意思でこれを判断して頂きたい、が主意である。とは言っても、これを正しく見極める科学的な情報がなかなか見つからない。私の提案は、意思決定するうえで必要となる数字を公的な研究機関がワクチン接種群と非接種群とのクロス表で示す、日本としてこれをスタンダードにしてはどうか、である。具体的なイメージを表1に示す。

表 1:(おたふく風邪の予防ワクチンを想定した、仮想のデータ)

ワクチン接種 ワクチン非接種
おたふく風邪 1万人に1人発症 1万人に1000人発症
無菌性髄膜炎 10万人に83人発症 10万人に1人発症

 

表中「無菌性髄膜炎が1200人に1人(10万人に換算すると83人)発症」という、左下の枠だけが根拠のあるデータで、他は残念ながら私の創作した数字である。こうした数字を広く国民に “見える化”させることが出来れば、我々国民の方はこの情報に加え手間や費用を鑑み自分なりに納得のいく判断が出来るようになるだろう。ただし、こうした数字を適切に示すことが出来る研究を行うには疫学専門のスキルが必須であり、また研究コストも掛かることから易しい課題ではない。具体的な研究の方法論に関するお話は何れまた取り上げたいと思っている。

ワクチン接種に際してはいたずらにノーリスクを前提とする態度も、一方で不必要に毒性を恐れる態度も適切ではないだろう。国家レベルで社会システムを構築し、適切にベネフィットとリスクについて出来るだけエビデンス(証拠)レベルの高い情報を提示出来ないものだろうか。ただし、仮にエビデンスレベルの高い情報から接種する、しないを判断するにしてもその判断が結果的に裏目に出ることがあり得ることは踏まえておくべきである。残念な結果に帰結する可能性がゼロではないという悲しさがある。国としての金銭的な救済制度は設けられているが、死亡や障害が発生した後に時間を取り返せるものではなく、この点は人類としての、現代科学としての限界点であるといえるだろう。

ところで、子供の進学を契機とした私の引越は綿密に分析し判断したつもりではあったのだが実際のところ子供はひたすらにオンライン授業を受けるばかりで、神奈川にある大学のキャンパスへは一度も通学していない。リスクとベネフィットを網羅的に列挙したつもりになっていたが、未来を見通すというのはなかなか一筋縄ではいかないものである。

(了)

*1: 電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」より2020.11.3.取得
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000068
*2: ウィキペディア「新三種混合ワクチン」より2020.11.2.取得
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E4%B8%89%E7%A8%AE%E6%B7%B7%E5%90%88%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3
*3: 公益社団法人日本薬学会「薬学用語解説」より2020.11.2.取得
https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?MMR
*4: 日本産科婦人科学会HPより2020.11.2.取得
http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
*5: HPVワクチン薬害訴訟原告の声2020.11.2.取得
http://www.yuki-enishi.com/kusuri/kusuri-36-1.pdf
*6: 大阪大学HPより2020.11.2.取得
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20201021_1