第2回:PCR検査に思う

これだけ検査の精度が残念な状況をお伝えすると「なんだ、診断科学って大したことないや」と思われたとしたら、それはおよそ妥当な認識ではある。それでもなお科学の進歩がもたらした現代の診断技術の偉大さは我々人類としては誇るべきことでもあろう。PCR検査(正確にはRT-PCR検査)を1つとってみてもそのベースとなる技法であるポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction、PCR)はごく微量のウィルスを検査できるまでにDNA増幅させる技術であって、ペストやコレラが流行した時代では到底、思いも付かない最先端の技術である。

この画期性は先日ノーベル化学賞を受賞した「ゲノム編集」と並んで現代の生命科学分野における3大発明の一つと評されているほどのものである(もう1つは「モノクローナル抗体」)。因みにこの技術を発明したキャリー・マリス博士は1993年にノーベル化学賞を受賞している。博士によると、彼女と車でデート中に突如、思いついたアイデアだったらしいのだが、話の真偽は定かではない。ただ、何よりこうした栄誉ある受賞に際しては大抵、その苦労話の数々や、あるいは類い希なる才能のどちらかを聞かされるのが常である中で、「アイデアを思いつくこと」の本質を突いた博士の言い放ちぶりは爽快でもある。

私と同じように共感する人が多いのか、それともあまのじゃくな学者先生もあるものだ、というキワモノ見たさの人が多いのかはわからないのだが、学術書とは全く違う視点でマリス博士の生き様は書籍にもなっている(「マリス博士の奇想天外な人生」ハヤカワ文庫)。

さて、検査指標をわかりやすく一本化するにはどうしたら良いのだろうか。私は表中で示した「有病率」で統一させてはどうかと提案したいのである。すなわち、検査の結果、「クロ」と判定されたら、例えば検査者全体の有病率を1%~10%と推定するのであれば表3と表2の中間に“正解”があるので「あなたが陽性である確率は33.6%~84.7%です」と。逆に「シロ」と判定されたら「あなたが陽性である確率は0.5%~5.3%です」と。

こうすれば天気予報のように大衆、世論にはわかりやすく、しかも只今メディアで様々な論争がされているような行き違いも起きないと思うのだが、どうだろうか。もっとも、これはコミュニケーション方法の話であって、検査の精度が向上するに越したことはない。9/30の報道では、北大病院で感度90%の検査方法に成功した、とあったので参考までに表1~表4と同じ体裁で表記してみたのが表5である(有病率は表2に揃えてある)。この位まで精度が向上すれば確かに「クロならば陽性、シロならば陰性」という、ヒトの直感とかなり一致するので表現の工夫などはあまり議論の必要もなくなるだろう。

表5 感度90%、特異度99%、検査者の有病率10%

実際は+ 実際は- 有病率
検査で+ 900 90 990 90.9%
検査で- 100 8,910 9,010 1.1%
1,000 9,000 10,000 10.0%

 

さて、私の逆行性胆管炎であるが、入院後6日目で炎症はほぼ治まったため、無事に退院することが出来た。隔離病棟で過ごした1日70,000円も患者負担としては発生しないとのこと。やれやれである。因みに、個室からの移動の際には無料の4人部屋にするのか、それとも差額ベッド代7,000円にするのか、と問われたのだが、その違いの説明もよく理解出来ないまま、迷わず7,000円の方を選んだ。結果的には7,000円×4日=28,000円の差額ベッド代となったが安いものだ。なにせ当初は50万円の差額ベッド代を覚悟していたのだから。「疫学と算盤勘定」。本コラムのタイトルを自ら体感する入院劇であった。

(了)